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情報のユニバーサルデザインとは

新しい世紀が始まった。かなりアジアに遅れた感は否めないが、日本はようやく、世を挙げて、ITラッシュである。これまで高齢者や障害者のIT施策は、ほとんど省みられてこなかったが、政府の予算もようやく確保され、各施設や自治体は高齢者・障害者に対応したIT機器を入れなくてはならないということで、福祉機器メーカーは大騒ぎらしい。これまで儲からないといわれながら、ささやかに機器を作ってきていた人々にとっては、やっと風が吹いてきたような印象だろう。

実際、前期高齢者と呼ばれる元気な層は、パソコンやインターネットの最も大切な見こみ顧客である。20代、30代へのITの普及はほぼ一巡した。しかし、日本にはまだ膨大な市場が残されている。多くの市場調査は、元気な50代60代がやりたいことの筆頭に、パソコンやインターネットを挙げている。ネット取引で有名な松井証券の顧客層は、45歳を中心に、きれいなカーブを描いている。通信白書が示す20代、30代をピークとしたITユーザー層とは明らかに違う層が、今後はITのユーザーとなる。また、年齢が高くなるほど、売買額も高い優良顧客なのである。2005年には成人人口の50%以上を占める50代以上は、こだわりを持つ消費者であり、納税者であり、有権者でもある。この人々が今後、なだれを打ってIT産業の顧客になっていくだろう。この層にいち早く対応した企業が、今後は市場を支配することになるかもしれない。

そのとき、ITはユニバーサルデザインであることが必須である。高齢者と孫が一緒に楽しめるような、使い勝手や内容であることが求められてくるだろう。これまではビジネスのためのものとして設計されてきたIT機器やインターネットのホームページは、今後、家庭で利用されるものとして考えられる必要がある。

しかし、PCのインターフェースそのものは、今はまだ若年層の多いアメリカが標準を握っているため、根本的な解決には至っていない。使いにくいアルファベットのキーボードに苦労し、マウスのダブルクリックと格闘する高齢者を、メーカーの若いデザイナーは認識しているとは言い難い。ユーザー層が声をあげることが必要である。このあたりは、通産省の情報処理機器アクセシビリティ指針が1999年に改定され、機器を作る際のメーカーの指針が明確にされている。機器自体にできるだけ配慮を埋めこんだり、支援技術と連動させて動くよう設計するなど、ユニバーサルデザインをより意識したものとなっている。

http://www.kokoroweb.org/guide/index.html

ただ、米国においては、リハビリテーション法508条の2000年の改定において、政府の調達基準を、障害者にアクセシブルなものでなければ「買ってはいけない」という明確な規定が出されている。これは、連邦政府にIT機器を納入したい世界中のメーカーに適用されるため、アクセシビリティやユニバーサルデザインの配慮が次第に広まるものと思われる。

また、ホームページの使い勝手やアクセシビリティも、重要な配慮点である。苦労してインターネットにアクセスしても、そのホームページが障害者や高齢者に配慮されていない場合が多いのである。例えば視覚障害者が音声で画面を読む際には、画像にALTというコメントをいれておかないといけないのだが、このことを知ってホームページを作成している人は、福祉関係者でもまだ少ない。柄のある絵の上に文字を書いたり、薄い黄色で文字を書いたりして、高齢者によみにくいサイトを作っている場合も多く、誰もが知らないうちに、加害者になってしまうこともある。行政・企業・団体の方は、ホームページを作成する際には、開発会社に、「アクセシビリティに配慮してください」と、要望することを忘れないでいただきたい。
高齢者・障害者に配慮したWebページの作成方法は、次を参照されたい。

(株)ユーディット アクセシビリティーガイドライン

http://www.udit.jp/web/guide.html (現在のこのページはありません)

こころWebからの提案

http://www.kokoroweb.org/tips/index.html

この件は郵政省が取り組んでおり、情報バリアフリー委員会などでツールの開発や指針の普及を行っている。2000年11月6日のIT戦略会議でも、今後、省庁のホームページはアクセシビリティに配慮することが宣言された。新省庁のWebサイトに期待する。
海外においては、Webのアクセシビリティは、ポルトガルのように公的機関のサイトはすべてアクセシブルでなければならないという法律を持つところもあり、欧米では公的機関から率先して配慮を進めている。
アクセシブルなWebとは、障害者に特化した、特別なものを作ることではない。配慮を中に埋めこみながら、例えば視覚障害者の使う画面読みソフトと、完全に連動できるように作成するのが最もふさわしい解決策である。その際、誰にも魅力的であるように、かっこよく作ることが求められる。Webデザイナーこそ、ユニバーサルデザインを理解する必要があるのだ。

情報のユニバーサルデザインは、情報通信機器にとどまらず、今後、デジタル化が進む放送についても、必須の考え方になっていく。字幕をつけたり、副音声を入れるということ、すなわち、放送を誰もが楽しめるように、最初から考えて番組を作る技術が、今後は当たり前になってくるだろう。米国では、Prime Timeと呼ばれるゴールデンアワーには、ほぼ100%のテレビ番組にClosed Caption(以下CCと略す)という字幕が付加してある。2006年までには字幕付加可能なテレビ番組にはすべて字幕をつけるというFCC(日本でいう郵政省)の指針もあり、番組製作は字幕付加のことを最初から考慮して行なわれている。また、13インチ以上のテレビにはすべて字幕デコーダーチップを内蔵すること、といった法律もある。これは、放送のUDを進める上で重要な法律であった。結果として百ドル以上していたデコーダーは、一気に一つ数セントとなり、今では米国中のほとんどのテレビで字幕を受け取れるようになったのである。今では聴覚障害者だけでなく、高齢者・言語習得中の子供たち、英語を母国語としない海外からの移住者・旅行者といった、さまざまな人が、ごく普通のテレビの、CCというボタンを押して字幕を見ることができ、誰もが一緒に内容を把握して、楽しめるようになっている。これは、情報保障という観点からも重要である。神戸の震災や東海村事故のときに、字幕や副音声がないため情報を得られず孤立した聴覚障害者がいたことは記憶に新しい。内蔵チップを開発した技術、それを支援した法制度、字幕付加を使命として続けたテレビ局、更にローカルの地域番組に字幕がつくたびに感謝状を送りつづけた聴覚障害者団体、といった、さまざまな動きの成果であるといえよう。

日本でも、音声認識を使ったニュースの字幕などが試みられてはいるが、全体でみればまだ全番組の2〜3%程度にしか、字幕はついていない。今後の取り組みは喫緊の課題である。デジタル放送への移行と同時に、研究が必要なテーマであろう。

IT産業にユニバーサルデザインの観点を持ちこむこと。それが、弊社の課題であり、明日はわが身である高齢社会への備えであると思っている。

- 2001年1月 UD会議での原稿 -

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