情報のユニバーサルデザインの歴史:日本
通産省の取り組み
こころWeb(画像は1997年ごろ。この中に当時のアクセシビリティ指針が日英で掲載されている)日本では、ITのアクセシビリテイを向上させようとする流れは1980年代の後半からありました。86年に米国で制定されたリハビリテーション法508条に影響され、88年に通産省の委託を受けて(社)日本電子工業振興協会が事務局となって1988年に設立した「ヒューマニティエレクトロニクス調査委員会」がそのさきがけです。
この委員会はその後さまざまに名称は変わりますが、高齢者や障害者に使いやすい機器の指針策定に取り組み、1990年(平成7年)4月20日に「障害者等 情報処理機器アクセシビリティ指針」(通商産業省告示第231号)を発表しています。この段階ではまだユニバーサルデザインという言葉は入っていませんで したが、その後、IT化の進展、機器の低廉化、技術の進歩などを背景に、2000年6月に改正された際には、ユニバーサルデザインへの配慮が方針として示 されています。PCを始めとするIT機器のハード、ソフト、またコンテンツに関しても、支援技術との連動とともに、本体のUD化が求められてきています。 また、事務機械工業会(2002年に名称変更:社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会(略称JBMIA))などでもオフィス機器などのUDが 2000年ごろから活発に議論されるようになりました。このような動きの中、各企業はIT機器を始めとしてATMや券売機、家電製品などについて、ユニ バーサルデザインに基づいた開発を行ってきています。
郵政省の取り組み
2000年当時の郵政省の通信政策
郵政省も1990年代の始め頃から情報バリアフリーへの取り組みを始めていました。ユニバーサルアクセスを確保するという立場から、さまざまなユーザーに 公平なサービスを行うことはミッションのひとつと考えられています。機器デザインに関しては1998年(平成10年)10月に「障害者等電気通信設備アクセシビリティ指針」を告示しました。また字幕放送など放送のユニバーサルデザインに関しても2007年までに字幕付与可能番組を100%、字幕をつけるという目標を立てています。
また、大変に課題が大きいのが、インターネットにおけるコンテンツのアクセシビリティで、障害者や高齢者など、誰にでも読みやすいWebサイトをいかにユニバーサルかつクールにデザインするかが課題となっています。1999年5月に「高齢者・障害者による情報通信の利用に対する人的支援及びウェブアクセシビリティの確保に向けた課題と方策」「情報通信の利用支援技術の普及推進とインターネットのアクセシビリティ確保」といった指針を出しました。
経済産業省と総務省で作ったJIS規格
その後、2001年の米国リハビリテーション法508条の影響もあり、経済産業省も総務省も、また各企業も、アクセシブルな製品でなければ国際競争に勝て ない、アクセシブルなWebサイトでなければ情報発信をする資格がないということの理解が増しました。また、日本が、世界最高齢国家であるということの認 識も進み、誰にでも使いやすい製品を投入することが、結果として多様なユーザーを市場とし、多くの顧客に満足を渡せるものであるという理解が、企業にも市 民の側にも進んだのです。
これを受けて、経済産業省と総務省は、協力してJIS規格(日本工業規格)における情報アクセシビリティの標準化を行いました。現在、5つの標準規格が出されています。
- 2004年(平成16年)5月
- X8341-1(高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス 第1部:共通指針)・・・2以降の個別規格の共通規格となっている。
X8341-2(高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス 第2部:情報処理装置) - 2004年(平成16年)6月
- X8341-3(高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス 第3部:ウェブコンテンツ)
- 2005年(平成17年)10月
- X8341-4(高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス 第4部:電気通信機器)
- 2006年(平成18年)1月
- X8341-5(高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス 第5部:事務機器)
このJIS規格が制定されたあとは、各省庁、自治体の理解も進み、アクセシブルなWebサイトの構築や、IT機器の調達基準をよりアクセシブルなものとす るところも増えてきました。しかし、これはまだADAやリハビリテーション法508条のような強制法規ではないため、もし違反しても罰則がないのが現状で す。市場におけるシニアの増加や海外からの顧客へのサポート、幅広い顧客満足度の向上などを目指して、今後、より一層のユニバーサルデザインへの理解が、 産業界にも行政でも進むことを期待しています。