6月19日 MITメディアラボとAEセンター訪問
10時にアポイントをとっておいたMITメディアラボへ行く。ここはユーザーインターフェースをやっている人間には憧れの地だ。歌うジャケット、音楽をかなでるボトル、ヨーヨーマのチェロを奏でるコンピュータ、視線で動かすレゴブロック?、と、ありとあらゆるおもちゃが散乱している印象である。
今回は、一般的なガイドと共に、2つのプロジェクトを見せてもらった。一つは大きな人なつこい犬がいたりする、Walter Benderの研究室である。
地域の高齢者をネットで結び、Web上でその生涯を発表するというものだ。地域のジャーナリズムと競合しない場で、彼等は意見を述べ、その存在する場所を確保している。コンピュータやインターネットの知識は必ずしも必要ではない。ネットはあくまでコミュニティを作るための道具だという見解で一致した。支援技術も多少は利用しながら、高齢者に使いやすいオンライン上のツールも提供している。高齢者がそれぞれに持っている人生の一部を、なんらかの形で共有する仕組みが、日本でももっとあっていいのに、と思った。コンピュータおばあちゃんの会のようなものが、もっとあちこちに存在する必要がある。各地にはそれぞれの歴史があり、各人にはそれぞれの歴史があるのだから。
2つめも高齢者に関連するものだった。Justin Casselという有名な女性研究者の部屋で、コミュニケーションを研究している。ここでは、Grand Chairというプロジェクトを見た。高齢者に自分史を語ってもらうために、部屋の壁にバーチャルなアニメの女の子が投影されて前に座る高齢者にお話をせがむというものである。単に機械に向かって話すより、ずっとなめらかにいろんなことが話せるという。話し始めてもらうためのきっかけの会話や途中のあいづちは録音したものであり、これにアニメの動きと音声認識を組み合わせて「会話」が成立することを目標としている。今回は音声認識はエンロールの時間がなかったので使わなかったが、認識結果からエージェントが動いて文章まで合成し、音声合成で返事をするなどして会話をリードできるようになってきたら面白いと思う。非常に興味深いシステムだったが、ま、キャラクターが日本人にはちょっとなじめないのはいたしかたないか?表情も変化できるとのことだったが、笑うとかなりこわい!ということで見せてもらえなかった。これも、孫と離れて暮らす高齢者に、自分のことを語ってもらうストーリーテリングのやり方の一つである。日本人にはなじみの薄い概念ではあるが、もっと普及してもいい。われわれは、自分たちの身近な歴史にあまりにも関心が薄いような気がする。現実の孫が出るより、もしかしたら話しやすいのかもしれない、などとも思ってみていた。
MITのキャフェテリアに、セガから来ている森さんに案内していただいて昼食。サラダがすごくおいしくて満足。
午後は、Adaptive Environment Centerへ行った。先週のProvidenceのUD国際会議の主催者のオフィスだ。直後なのできっとお客さんも多く、大変だろうと思って正式なアポはとっていなかったが、責任者であるValerieには、月曜に寄るかもといったらWelcomeだと言ってくれていたので、ちょっと気後れしながら行く。わたしは昨年の3月に続いて、2度目の訪問だ。しかし、行ったら大歓迎してくれた。スタッフはほぼ全員、先週Providenceで会った人たちなのだ。日本人スタッフも2名いてくれて、いろんなことを説明してくれて、とても助かった。とにかく、ここはアメリカのADAやUDの情報が、すべて集まっている。デザイナーがいるわけではないが、障害を持つ人が社会で生活を楽しんで暮らしていけるようにしたいと思っている意思の集まりのような場所である。ここにいると、UDが、産業界や政府の思惑からでなく、市民の素朴な思いから始まったのだということが実感されてくる。Valerieは過労で寝こんでいるとのことだった。どうか、無理をしないで、息長く続けていってほしいと思った。