2010年CSUNツアーレポート:榊原直樹
■第25回「障害者とテクノロジー会議」
JTB 主催、弊社がコーディネートするCSUNツアーも今回で12 回目の実施になる。毎年、研究者や技術者、デザイナー、教育関係者や学生、ユニバーサルデザインを進めるNPO など多様な人たちが参加し、会議だけではなく参加者同士の交流も盛んに行われている。2010 年3 月22 日から27 日まで、米国サンディエゴで開催された「障害者とテクノロジー会議」に参加した。
今回で25 回を迎えるこのカンファレンスは、世界35 カ国以上、アメリカ50 州からアシスティブ・テクノロジー、ユニバーサルデザインに関わる障害者、技術者、および教育者が集まる情報分野のアクセシビリティに関する世界最大級の カンファレンスである。日本からも多くの参加があり、セッションでの発表も行われた。
24 回にわたりロサンゼルスで開催されてきたカンファレンスは、今年から開催地がサンディエゴへと変更になった。これまで2つのホテルに分散して運営されていたのが、セッションも展示会も1つの会場にまとまることになり、参加者の利便性がこれまで以上に高まった。
新たな会場となるカンファレンスホテルはManchester Grand Hyatt Hotel San Diego である。高い天井のホールとツインタワーが印象的な高層ホテルで、5 日間のカンファレンスをゆったりとした気分で過ごすことができた。
写真:ホテルからの眺め | 写真:窓から見える空母ミッドウェー |
■カンファレンスの模様
カ ンファレンスの主なセッションは1 時間の枠で開かれ、様々な取り組みが紹介されている。最新の研究成果の発表や、企業の新製品の紹介などの他、教育現場や行政機関などでの実際の取り組みな どが紹介されている。事例発表のセッションでは、ディスカッションの時間をとって、会場内での情報交換がされることもある。
開催地が変更になった影響か、これまで常連だった参加者の顔ぶれが変わり、発表の内容にも変化を感じた。コミュニケーション支援機器の発表が少し減 り、代わりにWeb アクセシビリティや視覚障害者支援に関する発表が増えた。また、権利や法律に関するセッションLegal issue というタイトルの専用カテゴリは、これまで以上に充実し、いくつもセッションが開かれていた。
Legal issue が増えたのは情報機器に関する政府調達に対してアクセシビリティを義務付けている米国のリハビリテーション法508 条の技術基準の改訂作業が進み、そのドラフトが発表された事が影響しているのであろう。
リハ法508 条に関してはセッションとは別に同会場内で、技術基準を定めた委員会(Access Board)のメンバーによる公聴会が実施された。公開された技術基準のドラフトに対して、会場に集まった参加者が委員に対してそれぞれの立場で、技術基準に対する意見を述べるのである。 公聴会の一部しか参加出来なかったが、私が聞いた意見では概ね好意的な意見を聞くことができた。
カ ンファレンスのスポンサーの一角であるアップル社のiPhone は、コミュニケーション支援機器へも大きく影響を与えている。これまで自閉症などコミュニケーションが苦手な人の支援機器がPDA や専用の端末装置として開発されていたが、今年はこれらに加えて、iPhone アプリの形式で発売されたコミュニケーション機器が発表された。専用の機器を購入するよりもかなり安い金額で購入できるので、今後このような形式で開発さ れる支援機器が増えることが予想される。 また会場内では視覚障害の人達が、アクセシビリティ機能であるVoice Over を利用して音声読み上げ機能でiPhone を操作している様子をあちこちで見ることができた。日本のように高度な読み上げ機能を持った携帯端末が普及していない米国では、視覚障害者にとって便利な 端末として利用されていることを直接確認する事ができた。
サンディエゴは、住みやすい気候と全米でもトップクラスの治安の良さで、定年を迎えたシニアが最も移住したい街として知られている。実際、ホテルの 対岸にあるコロナド地区には、シニア向けの高級住宅地が並んでいる。定住しなくても冬の間だけサンディエゴで過ごす人のためのショートステイ施設なども充 実している。少し郊外に出れば医療や介護のサポートを受けられるシニアタウンがあちこちに存在している。そのような土地柄もあって、これまであまり取り上 げられてこなかったシニアに関する発表も増えた。日本に比べてまだ高齢化率が低いアメリカでも、徐々にこの層への注目が高まっている現れだろう。
今回初めての分野の発表として、ソーシャルメディアに関したものが見られた。Facebook やLinkedIn
などのソーシャルネットワークサービス自体のアクセシビリティに関して比較した報告や、それらのサービスを使って、サポートを行ったカナダの実施報告など
興味深い話を聞くことができた。また、発表の最後のスライドに問い合わせ先として、Facebook やTwitter
のアカウントを掲載することも多く、米国でのソーシャルメディアの浸透度を感じることができた。
カンファレンス自体もソーシャルメディアを活発に利用しており、Twitter ではカンファレンスに関するハッシュタグとして#csun10
が利用され、情報の共有が行われていたし、Twitter を利用するユーザーの集いも開かれ、参加者同士のネットワーキングが進められた。
■ホテル周辺
カンファレンスホテルの側にはシーサイドシティがあり、レストランや土産物屋が並んでいる。歩いて10分ほどなので、海を見ながらお昼を食べるのに最適な場所だ。
写真:シーサイドシティ1 | 写真:シーサイドシティ2 | 写真:お薦め料理 |
カンファレンスホテルの向かいには、「カンザスシティー・バーベキュー」というレストランがある。ここはトム・クルーズが主演して大ヒットした映画 「トップガン」に登場することで有名で、店内はトップガングッズが溢れている。セッションの合間に抜け出して映画の世界に浸るのもいいだろう。
写真:カンザスシティー・バーベキュー | 写真:カンザスシティーBBQのBBQステーキ |
■サンディエゴの街並み
カンファレンスの最終日の土曜日は午前中でセッションが終わるので、午後からはツアー参加者一同でサンディエゴ市内のバルボアパークに向かう。ここ には、多くの博物館や美術館などが並ぶ巨大な文化施設である。中でも有名なのは動物園で、世界トップクラスの規模だそうなので、見学してきた。様々な法律 が整備されているアメリカだけに、園内もユニバーサルデザインが徹底していて、ほとんどの場所が車いすで移動できる。また坂道や行き止まりで車いすの通行 が難しい箇所には、事前に看板などのサインで迂回路を示し、車いすユーザーが困らないような工夫がされている。動物たちは行動展示という動物の生態やそれに 伴う能力をが、自然に見られるように工夫がされており、迫力ある姿を見ることができる。オプションのコースでは、動物たちに直接触れることができるので、 視覚に障害のある人たちも十分に楽しめる場所だった。
写真:バルボア入り口 | 写真:この先車いす行き止まり | 写真:動物に直接触れられるオプションコース |
参加する前は開催地が変更された影響を心配したが、実際に参加すると会場が1つにまとまった利便性は大きく、効率よくセッションに参加出来た。また サンディエゴ自体がシニアに優しいユニバーサルデザインの街なので、とてもアクセシブルで非常に快適に過ごすことができた。次回はカンファレンスだけでな く、街に出て実際のシニアタウンを見学したいと考えている。
次回(2011年)カンファレンス予定
来年度のカンファレンスも今年と同じくサンディエゴで開催される予定である。
The 26th Annual International Technology and Persons with Disabilities Conference
日程:2011 年3 月14 日〜19 日
場所:Manchester Grand Hyatt Hotel San Diego, California
http://www.csunconference.org/