2009年CSUNツアーレポート:関根千佳(5)
3月19日 その1 Nokiaに見るURLの動向
今日はめいっぱいセッションを聞く。ITIのケン・サリートが主催するVPATのセミナーには、一昨年の基調講演者である両手が義手のジョン・ケンプが司会をしてくれた。彼が「僕はハンドヘルドデバイスのオタクで」と言ってみんなを笑わせる。欧米の障害者は、自分の障害を明るいジョークで説明するのが好きだ。508条の更新と、それが今後の米国のIT政策にどう影響するかをパネルで語るものであったが、米国政府の連邦政府調達局の担当官、キヤノンのオーブリー、TecAccessのデボラ、それにケンだったので、知り合いばかりだった。508条も連邦政府の障害者雇用もあまりにもあたりまえになってきていて、もはや特別なものではないという態度で話が進むのが羨ましくもあり、寂しくもあった。
その後、久しぶりにグレッグ・バンダーハイデンのセッションに出る。昨年会えなかったので2年ぶりだ。今回、彼は、WIRELESS RERCとして研究を進めているジョージア工科大をサポートする役割のようだ。ノキアと一緒に認知症のシニア向けの携帯電話サービスについて説明していた。要するに、URC(UNIVERSAL REMOTE CONSOLE)の携帯バージョンだ。携帯やPDAで周辺の電子機器を制御するXMLのプロトコルで、すでにANSIからISOになっている。一昨年まではURCのデモはPDAからエレベーターの階数指定を行うというものだったが、今年はかなり変わってきていた。情報家電を制御するための画面が、ノキアの携帯電話にも、パソコンにも送り出せるというものである。これはかなり昔からグレッグが目指していたものである。普段使い慣れたUIが、携帯やPCにポータブルに送り出せるようになり、どこへでも持ち歩くことができる。これが可能になれば、どんな国へ旅行しようと、誰の家に泊まろうと、自宅の家電と同じようにホテルや宿泊先の情報家電を使いこなせるはずというものだった。
ノキアのアクセシビリティ担当者の説明では、結構笑えるチャートもあった。C++の創始者であるビョルン・ストラウストラップが、こう語るシーンである。「私はこれまで、PCが電話のように使いやすくならないものかとずっと願ってきた。で、今日その願いはついに叶えられた!私はもはや、自分の電話を使いこなせなくなったのだ・・・」ま、説明しなくともおわかりだと思うが、かつては簡単だった電話が、いつのまにかPCよりも難しくなってしまった結果を嘆いているのである。だが、このセッションの中で紹介されたわかりやすいUIは、認知症ならずともシニアにも若い人にも使いこなせそうなUDなものだった。私は徐々に、アメリカのUIが成熟し、外堀が埋まってきていると感じていた。