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2006年CSUNツアーレポート:関根千佳(9)

3月24日 その1 アクセシビリティとユーザビリティ?

写真:2つのホテルの間を、人も犬も移動する朝8時から、昨日行くと約束していた、Mike Pacilloの話を聞きに行く。この時間、マリオットでは九大の鈴木先生のセッションもあっていたことに、後から気づいたが遅かった。Mikeの内容は、Webのアクセシビリティとユーザビリティの融合、というものだ。ふむ、日本ではごくごく当たり前にやっていることなのだけどなあ。
だが、考えてみたら、このCSUNで、「ユーザビリティ」という概念で話が進むことはこれまであまりなかった。昨日のKenのセッションで、彼がISO13407(ソフトウェアのユーザビリティに関するプロセス規定)を知らなかったのも、アメリカでは無理もないかもしれないのだ。なぜなら、私たちがたまに出席するCHIやHCIといった、ユーザビリティ専門家の多く集まる学会では、このCSUNの出席者をあまり見かけない。Wisconsin大学のGregg Vanderheidenくらいだろう。ただ、彼は基調講演に呼ばれるような立場であって、少し特別かもしれない。彼以外のAT産業の人々や、アクセシビリティの専門家にとって、学会や研究の色の濃いユーザビリティの世界は、ちょっと観念的すぎて縁遠いのかもしれない。
現場重視のアクセシビリティ専門家にとっては、当事者に有益でなければ意味がないからだ。だがヒューマンインターフェースの研究者にとっては、アクセシビリティはあまりにも実学すぎて学問ではないような気がするのかもしれない。この2つの領域が、やっと米国でも融合し始めたのかと思うと嬉しい。だが、日本の方がもしかしたら先行しているかもしれないのだから、もっと情報発信をするべきだと、ここでも反省する。

その後はもっぱら展示を見て回る。熊本のKさんが、URC(Universal Remote Console)のステータスを知りたいというのでTrace Centerのブースへ行く。これは、PDAや携帯から、あらゆるユビキタスな情報家電環境をコントロールするための規格で、Greggたちが仕様を作っていた。ANSIから、ISOに提案されたのだが、ISOでパブコメをとったあとは、エディターの専権事項になってしまうのか、オンライン上では現在状況は見えないようだ。Greggを捕まえれば何かわかったかもしれないが、少なくともTraceのブースにいたお兄さんは、光過敏症の研究しかしていないようで、ポケモン、ポケモンと連発していた。
ブースには、昨年の秋に参加した、緊急時のアクセシビリティ会議に関するちらしもおいてある。日本を出発する直前に、NIDDRからのメールで、このエリアにファンドすることがほぼ決定したという知らせがあった。あのワシントンでの会議でGreggやギャローデッド大学のJudy Harkinsがロビー活動をした成果だろう。私もこの関係の本を出そうと思っているのだが、日本での「緊急時の情報のユニバーサルデザイン」は、まだこれからというところだ。今回はGreggからこのエリアにおける発表はなかったが、聴覚障害のエリアではいろいろ動きがありそうである。

写真:専用のドッグラン。これだけ犬がいればねえ・・・ああ、それにしても空が青い!犬が多い!ホテルの外には、専用のDog Runもある。こんなに犬がいると、さすがに4日めだとDog Runの周辺は少しクサイ。。。仕方ないな。会場は相変わらずのワンちゃん大行進だ。晴眼者が、ちょっと小さめの犬を連れていたので、聴導犬かなと思って近づくと、「訓練中の子犬です」という札をつけている。
写真:見習い女官ならぬ、見習い介助犬は初々しいおお、こういった場で、実践の訓練を積むんだね。周囲の先輩犬たちが、近づいて何やら耳打ちしているぞ。電動車椅子にしっぽを踏まれたときの対処、とか伝授しているのだろうか?CSUN専用のノウハウもありそうだ。すごいなあ。こんなにロールモデルがいたら、犬だって早く一人前になるだろう。CSUNは、障害を持つ学生にとっては、大先輩の働き方を見る場だが、介助犬たちにとっても、先輩の動きを学べる場所なのだ。教育の場であることを実感する。

さて、展示会に話を戻そう。携帯電話メーカーはこの会ではかなり影が薄い。PDAの大軍団とはまったく違う雰囲気だ。その中では、Nokiaは善戦している。毎年、きちんとしたブースを出し、美しく内容のある資料を出している。フルキーボードにもなる横長の機器は昨年のものに比べ、視認性も触覚のフィードバックも改善されていて、より使い良さそうになっていた。一般のPDAに付くようなQWERTYキーボードとも赤外線やBluetoothで接続ができる。ザクティのような雰囲気のビデオカメラ付きのものも人気だった。どちらかというと、携帯電話をできるだけPCに近づけようとしているようだ。世界を最初から視野に入れて、最初からデザインしている。これは、ユニバーサルデザインというのか、グローバルデザインというのか・・・・。でも、ドコモの二画面携帯のように、全く新しい発想でユニバーサルデザインを推進するというのは、まだ世界の他のキャリアはやっていないのかもしれない。やっぱり来年は英語版をCSUNでデモできるといいのにな。
写真:少ない稼動域で動かせる入力装置。使い勝手はあと一歩か?その後も目に付いたブースでいろいろな機器やソフトを試してみる。北欧で開発されたという稼動域の少ない人にも使いやすいという入力機器、HPの新しいPDA、視線で入力できる新しい装置、大きな点図が打ち出せるプリンターなど、ありとあらゆる、ヒューマンインターフェースの「限界への挑戦」があって面白い。ま、使い物になるかどうかは別として、これだけたくさんの新しい視点を提供してくれる展示会は、めったにないだろう。会場でも、Universal Designの文字が目に付く。ATの世界の潮流なのだろう。
ひさしぶりにIBMのブースへ行ってみた。なつかしい人もいるが、ずいぶん代替わりしたようで、私の知らない担当者も多い。製品もかなり替わって来ている。いいことだ。京都市のサイトを出して、Webアクセシビリティの最新ツールのデモをしていた。グローバル企業だなあ。


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