2005年CSUNツアーレポート:関根千佳(2)
3月16日 セッションをはしごする
寝過ごした。キーノートスピーチを聞き損ってしまった。支援技術の歴史をたどるようないい話だったと参加者に聞いた。もったいなかったなあ。でも目が覚めたのがすでに9時だったのだ。急いで朝ごはんを食べる。やっぱりヒルトンは、朝から納豆ご飯が食べられていいなあ。生卵を食べる勇気は出ないが。
セッションの最初は毎度元気なダイナー・コーエンの雇用プログラムだ。防衛庁が各省庁に提供している障害者の雇用促進プログラムである。支援技術の選定、教育、周囲の人々への説得方法に至るまで、さまざまなメニューがある。
毎回ながら、これに参加すると、必ず落ち込む。いったい、日本でこういったプログラムが走る日がくるなんて奇跡はあるんだろうかと思うからだ。各省庁が喜んで受ける某省主催の障害者雇用促進プログラム!霞ヶ関では本当に働く障害者の姿を見かけることがない。きっと2.1%の法定雇用率は守っているはずなのだからいないことはないんだろうが、国会などに請願に来たらしい障害者以外、白杖や車椅子ユーザーで、ここで働いていそうな人は見かけない。新しくなった総務省のビルなんて、とってもアクセシブルなんだから、居たってよさそうなものなのだが。新品の車椅子トイレを使っているユーザーにあったこともない。各省庁の障害者雇用事情を、誰か正確に調べて発表しないかと思う。かつて某省庁に勤めていた女性と友達になったが、とても嘆いていた。少し麻痺がある程度の、私に言わせればかなり軽い障害の彼女は、就職後、何年経っても一年単位の契約更新しかしてもらえず、組合にも参加できなかったという。毎年、「君の替わりはいくらでもいるから」と脅かされ、そこで働き続けられるのか、ずっと不安だったと言う。大企業は、法定雇用率に敏感になった。日航が、法定雇用率を守っていなくて国に罰金として払い続けていた金額に対し、株主代表訴訟が起きて大問題になったのはいつだったろうか?で、今や、企業は法廷雇用率を守っていないとそのことを公表される。で、結論だ。この公表制度を、企業だけではなく、政府や自治体も採るべきではないだろうか?国自身が、優秀な障害者を育て、雇用し、政策決定に関与させる。まず隗より始めよということだ。米国のリハビリテーション法508条が、アクセシブルな機器の購入を、まず連邦政府から始めたのは、障害を持つ職員がたくさんいたからだ。日本で508条のような法律を通したいのであれば、障害を持つ職員をまずは省庁から雇用する。それが全ての始まりではないのだろうか?
今年の夏には、何かが変わるとアナウンスしていた。いつもながら、ATの新世界はワシントンDCから始まる。悔しいことだが、霞ヶ関から何かこの分野で、世界に発信できたことがあったろうか?ADAのような法律を、日本で通すべくもない現状を思う。
次は、Rosemaryのセッションだ。米国のNHK教育テレビに近い放送局WGBHのNCAM(National Center of Accessible Media)で活躍する彼女もまた、小柄で可愛いが実にできる女性だ。 このチームは、常にメディアのアクセシビリティを追求している。 今回、彼女は、カナダの研究所と共に、スマートカードで各人の障害に関するプロフィールやプリフェランス(好み)をネット上に送り、それに合わせた形式や見え方をするサイトにして送り出されてくるという研究成果を発表していた。
これは、私たちが、こうなっていくだろうと予測していた未来に近い。 スマートカードであれ、携帯電話であれ、われわれのプロファイルを知る手元のITが、ネットワークに接続してWebサイト上のあらゆるデータを私たちに合わせて提供してくれる未来。 こうなってくると、デフォルトのサイトのアクセシビリティは、最低限守っていればいいわけで、サイト作成者は重度の色覚障害者や白内障の方への配慮といったことはあまり考えなくても良くなる。支援技術側が、歩み寄るのだ。もちろん、グラフィクスにALT属性のような説明は、最初からついていないといけないし、カラーコントラストなど最低限のアクセシビリティを守る必要はある。だが、【どのレベルのユーザーまでを満足させねばならないか】といった悩みからは解放されるのだ。 ATが、UDと乗り入れることで、どっちもハッピーになるモデルケースのような発表だった。