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2005年CSUNツアーレポート:今井朝子

2005年CSUNツアーレポート:今井朝子

会議の正式名称:
California State University, Northridge Center on Disabilities' 20th Annual International Technology and Persons with Disabilities Conference 
概要:技術と障害者に関する世界最大の国際会議である。今年はこの会議が始まってから20年目にあたる記念すべき年であった。設立当初は、参加者は400名に満たなかったが、今年は参加者4000名以上、展示も175点が出展された。HiltonとMarriottの2つのホテルを会場として使った。 
会議日程:2005年3月16日(水)から3月19日(土) 
場所:アメリカ合衆国カルフォルニア州ロサンジェルス

 

講演内容の報告

報告者自身の発表

題名:A handheld map annotation system for sharing accessibility information in communities. 
概要:やおよろずプロジェクトで設計、試作、評価実験を行った、図1に示すGPS付き携帯電話システム上に構築した「ここメモ」アプリケーションを図2に示した会場で紹介した。アクセシビリティ情報をサーバにある地図にリアルタイムで登録したり、取得できるようになる点について説明したところ、参加者からは、情報のフィルタリングやビジネスモデルなどに関する、実用化の際に伴う問題に関する質問があった。

イラスト:GPS付き携帯電話とここメモに表示された地図
図1GPS付き携帯電話とここメモに表示された地図
写真:報告者のプレゼンテーションの様子
図2報告者のプレゼンテーションの様子

 

基調講演

講演者: Dr. Albert Cook 
Cook博士はアラバマ大学のリハビリテーション医学部の学部長であり、学際的なチームで支援機器を開発し、障害者が支援技術を利用した際の有効性を評価している。また、Cook博士は、Glenrose Rehabilitation Hospitalにある支援機器サービスとも関係がある。以前は、カルフォルニア州立大学サクラメント校の生医学工学の教授を勤め、生医学工学の大学院のプログラムを作り12年間指揮した。Cook博士はまた、支援機器センターの共同ディレクターである。RESNAの前会長でもあった。RESNAとは、Rehabilitation Engineering & Assistive Technology Society of North Americaの略で、北アメリカの主要な支援機器の専門学会である。Cook博士の研究の分野は、代替コミュニケーション、能力を増大させたコミュニケーション、生医工学の機器の利用法や支援機器の設計、開発、評価である。アメリカ及び海外で3つの機器に関する特許を持っており、この分野で多くの本を出版し、会議で発表をしている。 

支援機器の歴史についての講演では、支援機器の時代を以下の3つに分けて説明した。

  • 1980年以前 基本的な要求を満たすための機器の開発が重視された時代
  • 1975から1980年にかけては、肢体に不自由があってもコンピュータが使えるようにするために、Selectio Methodが販売された。これは、2つのキーを同時に押すことが難しいユーザーが、同時に押せるようにする機能を持っていた。
  • 1980から1995年 アプリケーションが重要視された時代
  • 1980年には、プログラムすることのできるFreedom Keyboardが発売され、1985年には視覚に障害を持った人がコンピュータにアクセスできるようにするために、Talking Screenが発売された。こうした機器は初めは高価であったため、大きな施設などで使われた。
  • 1985年以降 利用者がどのように機器やアプリケーションを使うかという、機器やアプリケーションがもたらす結果を重要視する時代 
    また、508条は支援機器を飛躍的に向上させたことを指摘した。(この条例は連邦議会が1998年にリハビリテーション条例を修正したものであり、連邦政府関係機関は電子情報技術が障害者に利用できるようにしなければならないと定められている。これは、全ての連邦政府関係機関に適応され、電子情報技術の開発、調達、維持、利用のプロセスに適応される。)支援機器への関心は高まっており、CSUNへの参加者は1985年には200名であったが、2004年には約4000人の人が26カ国から集まったことを報告した。

 講演の報告

題名: Results of the Talking Tactile Tablet Authoring Tool Contest(Touch Graphics Inc. NY) 
発表者:Touch Graphics Inc. 
視覚障害者のためのコンピュータ製品を研究、販売をしているニューヨークにある社員12名の会社からの発表であった。 
www.touchgraphics.com 
内容: Talking Tactile Tablet(TTT)の報告。Touch Graphics社と、Thermoform株式会社が作成した、画像や図を触ると触った場所の情報が音声で提示されるシステムである。こうした音声と触覚情報を提示するシステムを、Audio-tactileと呼んでいた。TTTは、WindowsやマッキントッシュコンピュータのUSBポートに接続することのできる、低価格の機械である。ユーザーは凹凸の図がついた紙をTTTの上に置き、図のいろいろな場所を触ると、音声で説明が流れるアプリケーションである。コンテストなどの結果、触れる世界地図、触れるゲーム、触れる数学や歴史や科学のテスト、触れる建物案内などが作成された。また、美術館には絵画に触れるようにしたアプリケーションも納品している。 
コメント: TTTは紙に凹凸を印刷して触覚情報を提示していたため、図の変化を伝えることができない。電気触覚などの技術を用いれば、図の動的な情報を伝えることが可能となる。 

題名:Letting Go Of Wires: Universal Access Through Wirelessly Connected Devices 
発表者:JoAnn Becker(全盲の女性)Optelec Tieman Group 
Optelec Tieman Groupは、視覚障害者のための電子機器を提供する世界最大のサプライヤーである。 
http://www.optelec.com/ 
内容:
自らが全盲である女性が、プロトタイプシステムの紹介を行った。紹介したのは、視覚障害者のためにカスタマイズされた既製品のPDAであった。PDAは光量を検出し、今の環境の光が、まぶしいのか、薄暗いのか、真っ暗なのかを音声で伝えていた。また、カメラを物に近づけることによって、色を音声で伝えていた。カメラを拡大鏡として使ったアプリケーションはMobile Magnifierと読んでいた。点字タイプライターを接続することも可能であった。更に、DAISYフォーマットで記録されたデータを読む機能も持っていた。DAISY(http://www.daisy.org/)とは、Digital Accessible Information SYstemの略で、文字情報を音声で聞くことを目的として開発されたデータフォーマットであり、ANSI/NISO Z39.86-2005(http://www.daisy.org/z3986/2005/z3986-2005.html)として標準化されている。音声で読み上げられている本の内容を自由に行き来できるなどの配慮がなされている。 
コメント: 
視覚障害者のニーズを熟知し、必要な情報に手軽に音声でアクセスできるようにした、実用性の高いシステムである。日本ではPDAよりも携帯電話の方が普及しているため、携帯電話で実現可能であると考えられる。特に、Mobile Magnifierのアイディアは、日本の携帯電話でも比較的容易に実現可能なアプリケーションであると考えられる。 

展示の報告: UltraCaneを使う報告者
「技術は人間の能力を増幅させる(augment)ために使うもの」という考えが、具体的なアプリケーションとして提案され、実際に使っている点が非常に素晴らしい展示であった。会場内をセグウェイが走り、カスタマイズされた様々な機器を車椅子に搭載してコミュニケーションをしている来場者を見ていると、近未来世界を見ているような感じさえした。また、日本では研究や実験などに主に使われている視線入力技術が、重度障害者の実用的な入力方法として使われている点が、日本と大きく異なっていた。更に、UltraCaneのように大学で研究された技術が製品になり、国際的に輸出されることがあたりまえのように出来ていることが素晴らしいと思った。右にUltraCaneを使う報告者の写真を示す。UltraCaneは超音波を白状から発信して障害物から帰ってくるエコーを検出し、障害物があるとボタンの振動で障害物の存在を知らせるシステムである(http://www.soundforesight.co.uk/product.htm)。実際に使ってみたところ、初めて杖を握った私にも外界を想像することができた。デザインもシンプルで、説明も要らず、素晴らしいと思った。日本にも輸出する予定だと聞いたが、日本人には少し重すぎると感じた。また、会期中に、ホテルでさっそくUltraCane使っている人を見かけた。愛知万博にも展示されていた。

 

全体の報告


今までにあった研究成果を旨く使いこなして、ニーズにあった製品を提供していた。人間の能力を増幅する(Augment)というのは、こういうことなのだということを明確に示してくれる会議であった。アプリケーションも非常に想像的で、デザイン性に優れていた。更に、障害者自身も新しい製品や技術を積極的に試そうという姿勢があり、個人個人に合った技術を追求する姿勢は学ぶべき点が多かった。ユーザーである障害者、研究者、製造者が協力すればこのように大きな流れになることの好例であると考えられる。また、会議中は大型の盲導犬が多数、静かに主人のそばに座っていることも印象的であった。その人にとって必要なサービスを中心に考え、盲導犬などの古典的な支援方法から、視線入力などの最先端技術を使った支援方法までを上手く組み合わせて利用している点が印象深かった。高度高齢化社会を迎える日本でも、ユーザーの要求を中心にして支援方法を考え、障害者や研究者や企業が協力することが重要になると考えられる。


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