2004年CSUNツアーレポート:関根千佳(4)
3月19日CSUN3日目 WCIL訪問
夕べも1時半まで飲んでいて頭が痛い。でも、元気にセッションへ行く。朝一は、WGBH・NCAMの新人、Andrew KilpatrickがJim SatcherたちとやっているWebアクセシビリティのプライオリティチェックツールの紹介である。すでに存在するサイトを、どこからどう手をつけるべきか、途方に暮れるサイト管理者にとって、修正すべき点に優先順位をつけ、ここから手をつけるといいよ、これは後でもかまわないよ、と教えてくれるものだ。聞いていて、その実用性にうなった。レガシーなサイトのアクセシブル化は、本当に日本では喫緊の課題だ。でも、Webアクセシビリティに詳しくない行政や企業の担当者にとって、何から手をつければいいのか、いくらかかるのか、を見積もることは難しい。弊社でもよくこういった依頼はくるのだが、8万ページあるというそのサイトの手直しを見積もるのは至難の技だ。同じようなテンプレートに落とし込んであるものならまだしも、全て異なった部門でばらばらに作られたサイトの寄せ集めである場合、ソースを全て見ないと修正できないこともある。隣に座っていたWGBH NCAMのマネジャー、Larry Goldbergに、これいいよね、日本語化したいよ、とコメントしておいた。
今日はGreggたちが進めているV2の発表のある日だ。わたしもこのMLに参加して2年以上が経過しているが、いかんせん、ISOに提案してからというもの、サイトからは細かいデータは見えなくなったし、AIAPというこのプロトコルがどんなものなのか、予測することが難しくなった。なんらかの情報がないかと、日本企業も多数集まった。いつもながら、Greggの説明はわかりやすい。更に、なぜかなぜか、パワーポイントには日本語が半分で、驚く。いったい、君は日本企業にこのV2に参加してほしいと思っているのかい?実際、携帯電話やPDAからすべての情報家電やPCを制御するというこの規格は、もし本当に実現したら日本への影響は避けられない。ユビキタスの情報家電やネットワークを考える上でも、もしこのISOが日本企業に不利なように決まってしまったら、508条と同じで見えない非関税障壁となって日本企業の首を真綿で締めることになるだろう。現在、日本企業でこの標準化策定委員会に参加しているのはパナソニック一社だ。それも、熱心に動いてくれていた担当者が、異動してしまうと聞いて私は穏やかではない。
このセッションで、Ken に会う。会場の最後列から質問をした人を見て、私は息を飲んだ。彼だ。2年前のCSUNで、何時間も話し込んだ。あの柔らかい物腰。優しいまなざし。少しも変わっていないような気がするが、でも、なんだか、ひげを蓄えて、少し老けたかな?でも、目を見ると変わっていなかった。去年は、会場で彼を見つけることは出来なかったのだ。米国の産業界の意図を熟知しているその人に、わたしはなぜか不思議と惹かれるものがある。2年前、二人で食事をしていて「508条は、アメリカ政府による日本の産業つぶしじゃないわよね?」と迫ったときの、彼の優しく寂しそうな目が、いつまでも心に残っていた。
アメリカは、自国のことしか考えていない。よくそう言われる。だけど、日本だって、自国のことしか考えていないじゃないか?わたしは心の底でそう思う。アメリカは、他国を知らないんだから、共感してくれって頼むほうがムリよ。日本こそ、同じような環境の国に何を貢献しているの?どこかにそんな思いがあるのだろう。国際協調を進めたいけど、どうしていいかわからない二つの国家を見ながら、アクセシビリティが、国家間の産業戦略になってしまうことを悲しく思う。たぶんKenも、そんなふうに思われることが心外なのだろう。そうだ。日本が、アクセシビリティを理解していないからこのジャンルで遅れていくのだ。だけど、遅れているってわかっていながら、国内法にみせかけて市場から日本企業を締め出すのはフェアじゃないわ。。いろいろな思いが錯綜する。
21世紀において、環境とUDは、国際競争力の切り札となる。より厳しい基準を設けた国のほうが、グローバル市場で勝者となるだろう。V2は、見かけ上アクセシビリティの基準だが、実現すればモバイル業界と情報家電業界全体に大きな影響がある。
この基準は、つぶしてはならない。障害者や支援技術業界、また、ユニバーサルデザインの推進からは非常に必要な概念だからだ。だから、日本企業や政府も、これを支援する側に回らねばならない。日暮れて道遠しといった印象だ。
次は、シンシアのITアクセシビリティスタンダードの国際協調というセッションに行く。これも満席だ。彼女はUNのマニラ宣言への支援、EUやアジアでの講演などを通じて、世界に多くの知己を持っている。各国政府がおのおののアクセシビリティ指針を打ち出す中、当然ISOへの提案も各国は視野に入れて動いており、自国内でその標準への準拠は大切な課題となっている。日本でもこのくらい、政府がこの問題に意識をもってくれるといいのだが。。。やはりセッションではWeb関連が中心だった。世界を一瞬でつなぐ情報受発信のツールなのだから同感ではあるが、IT機器、モバイル、ATMなど、グローバルに展開したい企業にとって、もっと幅広い議論があってもいいのではないかという気もする。