2004年CSUNツアーレポート:関根千佳(5)
3月19日 WCIL訪問
午後は、WCILへの視察をセットしていた。空港のそばだから近くでいいよね、と話しながらその住所へ向かう。だが、あれ?扉にカギがかかっている・・・・おかしいな、と榊原と毛利さんが一生懸命、電話をかけている。応答がない。そんなばかな〜、だって、昨日、WCILのベロニカが、待っているわよって声かけてくれたじゃん。そう、このWCILの別の建物は、2年前に一度訪れていたのだ。その時のスタッフを私は覚えていて、会場で挨拶をしていたのだった。「え〜そうなの、じゃやっぱり待っているんだ。でもそれって、ここじゃないってことなの?」毛利さんと榊原はパニックに陥っている。ううむ、でも、ベロニカとは改めては名刺交換なんかしなかったし、パソコンはおいてきちゃったし、連絡はつかないぞ。とかあせっていたら、14時過ぎて、エラク立派な雰囲気のおばさまが昼食から戻って見えた。
「あの〜、14時にアポをとっているはずなんですが・・」声をかけると
「そんなはずないでしょ。それは別のオフィスよ、ここは単なる事務所なんだから」とベロニカのオフィスに連絡をとってくれた。運転手に地図もプリントアウトしてくれて、なんとかそっちへ向かうことができた。ううむ、やっぱり、視察に関してのやりとりは、榊原だけではなくて、私や毛利さんにもCCしておいて、住所とかは明確にしておかないといかんなあ。何かで榊原が渡米できなくなったりしたら、誰もわかんなくなるし。あ、私のPCには、どのみちこの数週間のデータログは入っていないんだった!直前に取り替えてしまったじゃん。やっぱりバックアップとして、訪問先の連絡先などは印刷しておくべきだなあ。。などといろいろ反省した。ツアー参加のみなさま、お騒がせいたしました。
だが、2度目ではあったが、WCILへの2回目の訪問はなかなか面白かった。カリフォルニア全体をカバーするCILの活動の概要を聞いた後、さまざまな部門を見せていただく。一番みんなが沸いたのは、重度の方が電動車椅子に取り付けたリモコンで、車のドアを開け、リフトを出し、それに乗り込み、運転手用座席に収まって運転を始めたときだった。スイッチだけで全部がコントロールできるように改造されたクルマにも感嘆の声があがった。
電動車椅子の手元のボタンで車のドアを開け、リフトを下ろし、乗って、運転席へ行って運転する。コントロールも全てボタン | |||
こういった技術が、どうして当事者の手に渡ることが、アメリカでは可能で、日本では不可能なんだろう? そりゃ、道交法では電動でしか動かない車なんて認めてないからだよ。 とか本人以外が動かせないって日本では許さないのさ、とか、いろんな意見が飛び交った。 社会に迷惑をかけないことを第一義とする日本と、本人の自立が図れるという価値の方が社会に迷惑をかける万が一の可能性より大事だと思うアメリカとの、これが根本的な違いなのかもしれない。 きっとこのクルマがエンコしたら、アメリカ人はそれこそ楽しそうに動かすのをみんなで手伝うだろう。 It's my pleasure! この言葉が飛び交うのが目に浮かぶ。 Bushの強圧的なアメリカはあんまり好きじゃないけど、こういった互助の精神に関しては、アメリカって悪くないなあと思う。 山田太一さんの不朽の名作「男たちの旅路 車輪の一歩」の中で、主人公が車いすユーザーたちに言った言葉を思い出す。「君たちは、迷惑をかけるなと教わってきた。だが、必要な迷惑をかけることを怖れるな」その言葉で、主人公の斉藤恵子は、梅が丘の駅で、「すみません、手を貸してください」と階段に車椅子をもちあげてもらう勇気を得る。そうなんだ、迷惑をかけまいと何もしない人生を選ぶより、懸命に自立のための努力をして、それでも万が一、迷惑をかけてしまったとしても、社会はそれを暖かく迎える。そんな社会の方が、チャレンジもできるし、ずっと生きていきやすい。傲慢になってはいけないけれど、ぎりぎりでかける迷惑はいいのではないのか?誰だって、クルマがエンコしたら押してもらう可能性を100%否定することはできないのだから。こんなささやかな勇気の集合が、今の日本のユニバーサルデザインを支えてきたんだと、しばし、感慨にふけるのだった。
夜は恒例のSun & Moon Cafeでの宴会。タンちゃんの料理は相変わらず美味しく、名物となったビールの一気飲みではかなり盛り上がった。女性スタッフの7ヶ月という赤ちゃんがすごく可愛くて、厨房にいくたんびにほっぺにすりすりしてしまった。
ホテルに帰ってから、いつものように、グラスを持って毛利ルームへ行く。あれ、今日はやけに静かだな?そっと扉を開けると、毛利氏は熟睡している。奥のテーブルで、新潟大の林先生が、静かに本を読んでいる。私に気づいて、そっと目線で毛利氏の方を指した。「あ、今日は起こさないほうがいいよね、わかった、お休み」目でそういって、私は部屋に戻った。林先生、やさし〜〜〜い!なんてジェントルマンなんだろう。毛利さんだって人間なんだから、こんな毎晩ヘビーに部屋を明け渡して飲み会につきあっていたら、疲れるだろう。だから、こうやって、林先生はエジプトのピラミッドの番犬ケルベロスのように、忠実に彼の眠りを守っているんだ。私は胸が熱くなった。どうしてこのツアーって、みんなこんなに紳士淑女の集まりになるんだろう?ここに来て、すっごくいい人に会えるのって嬉しいことだなあ。そんな感慨にふけっていたら、部屋の電話が鳴った!「関根さん、毛利、復活しました。どうぞいらしてください!」電話の向こうにはいつもながらの大騒ぎが聞こえる。やれやれ、今日は早く寝られると思ったのに。やっぱり1時半まで飲む。美容によくないなあ。