2003年CSUNツアーレポート:国保祥子(5)
機器展示の感想
機器展示は、ヒルトンホテルとマリオットホテルのボールルームで開催されています。かなり広い会場に所狭しとブースが立ち並び、各ブースでは担当者
が来場者に説明やデモをしています。私は支援機器そのものにはあまり詳しくないため、個々のブースを細かく見るというよりは、全体をざっと見て回りまし
た。
Sunのブースがあったので立ち寄り、担当の女性と立ち話をしました。彼女にSunのATに対する考え方を訊ねたところ「既存の製品にアクセシブ
ル機能を組み込むことで製品そのものの競争力を増すことができるから、我々はATを重視している」というもので、確かにそれが最も望ましい形だよねと話し
ました。
彼女が日本でも508条のような法律の制定があるのか?と訊いてきたのでJISのことを話したところ、その内容と日本の調達基準に対する影響度合を知りた
がりました。JISが508条に近いものであれば問題はないが、もし大きく異なるものであれば、メーカーにとってはアメリカ市場向けと日本市場向けとのダ
ブルスタンダードを持つことになり効率的でなくなります。そのインパクトを見積もるためにも早めに知りたいのだと言っていました。私は彼女に提供できるよ
うな有益な情報を持っておらず、ごめんなさいと言って帰ってきましたが、アメリカのJISに対する注目度と、日本からの情報発信の大切さを感じた一件でし
た。
展示会場に入り会場を埋める多くのATを見たとき、私は不覚にも泣きそうになりました。誰かが誰かの役に立つようにという気持ちの結晶である
AT、そしてそれを使って誰かとコミュニケーションをしようとしている人、誰かの役に立つものを探している人、そういった「思い遣り」に満ちている空気に
圧倒されたのです。
また、とあるコミュニケーションエイドのブースで電動車椅子の女の子と母親らしき人がヘッドスイッチを試用しているのを見たときも涙腺が緩みました。私は
16歳のときにアメリカ留学をしているのですが、最初の半年は英語が出来ないがために満足のいくコミュニケーションをとることが出来ない、友達も出来ない
というつらい思いを味わっています。そのときに、拙い英語であるにも関わらず一所懸命私の言っていることを理解してくれようとした人達の気持ちがどれほど
有難かったことか。半年後に英会話力がつき、自分の言いたいことが言えて話しかけられている内容が理解できるようになったとき、どれほどシンプルに嬉し
かったことか。
その親子を見て、そのときの自分やコミュニケーションできることの喜びを思い出したのです。
ATは、人を幸せにする素晴らしいテクノロジーだと思っています。しかしそんなテクノロジーを作り出すスキルを、残念ながら私は持っていません。
ならば、それを作る人や使う人にとってより快適な環境構築を自分の得意な形で行いたいと考え、そのためによりいっそうのスキルアップと、自分自身のブラン
ド化が必要だという思いから大学院進学を決意したのです。改めて、努力しなければと思いつつ展示会場を後にしました。