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3月23日 Web Accessibilityと支援技術

Sun MicrosystemのEarlと

今日はWebAccessの話が続く。と思ったが8時からの1時間目は間に合わなかった。せっかくW3C WAI(Web Accessibility Initiative)のJudy Brewerが来ていたのに。仕方なく2時間目のIBMのUniversal Gatewayというセッションから聞く。これは次の日本IBMのXML Transcodingとも近い概念である。個人の好み、能力などに応じて、サーバー上のXMLは各人のPCに変換されて配信される。字の大きさ、フォントの太さ、色、グラフィックを入れるかどうか、などは、もう手元のPC上で指定可能だ。あなたのPCからネットワークに、このページの内容を、私はこう読みたい、と指定するだけであなたにフィットした形式でデータは送られてくる。

昔から、こうあってほしいなあと思っていた機能が、ようやく少しずつ実現してきた印象である。今はWebのデザイナーや見栄えや配色に非常な配慮を払っているが、次第にこれは問題ではなくなってくるだろう。一般的なサイトのデザインは見栄えも大切だが、やはりコンテンツに価値がなければ読んではもらえないのだ。表装だけでは本は売れない。PDAや場合によっては音声でしか、そのサイトにアクセスしない層が増えるとき、この情報の価値という本質的な問題に、Web関係者は戻っていくのだろう。

午後もWebAccessを中心に参加した。Canada政府のアクセシブルWebコンサルティングサービス WATS(Web Accessibility Testing Service)もなかなか優れていた。カナダはこの分野ではアメリカにきっちり付いてきている印象である。アクセシビリティに関する国の理解、法律、制度、教育体制など、すべてがちゃんと予算化され、まともに運営されているようだ。2002年の電子政府の導入なども考慮されている。WATSは、政府が運営するアクセシブルなWebサイトのコンサルティングサービスである。1995年の支援技術センターのWebサイトをアクセシブルにしたころからこの問題への理解が進み、97年にWAIに国として加盟し、2000年のWATSの活動では100以上のサイトのアクセシビリティをチェックし修正したという。 

日本でも中央省庁のサイトは2001年1月6日からアクセシブルになっているし、地方自治体のサイトもアクセシブルにしなさいというお達しは総務省から出てはいるが、実際どうすればいいのかわからずに悩んでいる担当者からの相談をよく受ける。カナダのようにきちんとしたサポート体制をひかなければImplementは難しいのではないだろうか?

夕方はデモを見て歩く。相変わらず、Marriottの中はアクセシビリティ関連、HiltonはAACで分かれているものの、ものすごい量である。
触覚ディスプレイ VirTouch508条準拠を受け、視覚障害者関係は花盛りといった印象だ。また、ヘッドトラッカーという頭で動かすマウスが、今回はAACデバイスを動かしたり、家の中の灯りなどの家電製品、またモバイルなどを動かすという製品に進化していた。どんどん障害者支援技術は、周辺機器とつながっていく。それもおそらくコードレスで。Sun MicrosystemsもJINIでそんなデモを行っていたそうだが、今回私はミスってしまった。シアトルで見るね、と、車椅子のエンジニア、Earl Johnsonに約束した。彼も大好きな人の一人である。

タクタイル系では、昨年はまだ試作品だったグラフィックを指で感じるシステムが製品化されていた。スタンフォードのCSLIでいつか見たものにかなり近い。Virtouchという製品になっていて、かつてのオプタコンのように画面の絵の部分へマウスカーサーが行くとマウス上の3つの点字状のピンが振動して形状を伝える。昨年も結構これで遊んだのだが、今年はより洗練されていた。ちなみに価格は4000ドルだそうだ。やっぱりまだ高い。
視線入力システムまた、視線入力系の進化もなかなか興味深かった。まだVRのHMD(Head Mount Display)に近い印象だが、このめがねをかけると見え方そのものをコントロールできるというNuVisionという製品が新しかった。これが、あと数年すれば普通のめがねみたいになって、弱視や老眼、視野狭窄といった多くの視覚障害は、相当、楽にものを見ることができるようになるだろう。また、視覚障害用ではなく、ALSなどの視線入力の分野だが、VisionKeyという片目用のめがねをかけて、その視線の位置を検出しめがねのなかの文字やコマンドを選ぶシステムは、これまで見てきた視線入力に比べ、カリブレーションが楽で使いやすいと思われた。EyeGazeなどは頭を動かしてはならない等の制約が大きいのである。この分野はユーザー層が限られているにもかかわらず、毎年新たな企業が進出しており、技術の進歩が激しい。かつてタイプライターが視覚障害者のため、ライターが肢体不自由者向けに開発されたことをわれわれがもう知らないように、音声認識や視線入力もいつかは一般的なインターフェースとしてごく普通に使われていくのだろう。しかし私はその最初に、多くの障害者やリハビリテーションエンジニアの長い努力があったことを、忘れずに伝えたいと思う。

夜はManhattan BeachのSun & Moon Cafe最後のパーティとなった。香川大学の中邑先生、スタンフォード客員研究員だった合田さん、月刊ニューメディアの吉井さん、竹中ナミさんの弟さんである市田氏も参加し、にぎやかな夜だった。ベトナムと日本の味にまた感動する。


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