4月5日 CHI本会議 最終日
Georgia州立大学のセッションを聞く。ここはジョージア工科大などと組んで、医学系のチームとしての発表だった。神経難病の患者に、脳波センサーをImplantし、それで意志決定を支援するシステムを実現したというのである。驚愕した。実際にImplantされた患者の写真も出された。1分間に3文字を拾うことができたという。これは画期的なことだ。CSUNでも、脳波コントロールに関しては、アルファ波とベータ波を拾うことで意思結滞ができるというところまでは何度も発表されていたが、それを組み込んだ脳波センサーを実際に脳皮に埋め込んで、意思伝達まで実現した例をわたしはまだ見たことがなかったからである。発表後は万来の拍手で、質問でもCHIで最高の発表、といった賛辞も出たので、世界中の研究者もそう感じたのだろう。あまりにも名刺交換の列が長く、私はあきらめた。
最終日は、Gregg VanderheidenのClosoingで終わった。彼が支援技術でやってきたこと、IT機器にアクセシビリティが必要な理由、今後のIT技術がどんな状況に変わっていくのか、そして、ユビキタスやユニバーサルデザインが拓く未来像について、さまざまな国家プロジェクトや彼の研究を交えて紹介していた。内容的には私には非常に魅力的だったが、会場を埋めるHCIの専門家にとって面白かったかどうかはわからない。この分野では、まだまだGreggでさえ、とってもマイナーな存在なのだ。誰も反対はしない。ご意見も拝聴する。しかし、アクセシビリティやユニバーサルデザインは、現実には米国でさえ未だに誰もが理解し歓迎するというものではないのだろう。まあ、ニッチだからこそ、私のように訳もわからない人間がなんとか仕事になっているのかもしれないので、あまり考えないようにしよう。
最後のセッションの後、MIT Media Labの石井先生と少しだけ話す機会があった。今回は彼のプレゼンを聞けず、そのことはとても心残りだったが、名刺を頂いて嬉しかった。いくつかのセッションで、実にクリアで核心をついた質問をしている人がいるなと思ってよく見ると、石井先生だったことがある。本当にいい意味で日本人離れした方だという印象を受けた。早くTenureになって、イチローのように海外でこそ認められる存在になっていただきたいものだ。
CHIはCSUNと違って、純粋にアカデミックな世界だ。私は日本の学会でさえあまり縁がなかったため、面食らうことも多かったが、とても勉強になった。Human Computer Interfaceはこれからどんどん実世界に近づき、そしてさまざまな人に使えるものになっていくはずだ。ユビキタスに、ユニバーサルに、自然と進化していくだろう。それが、美しく、そして暖かいものであってほしいと願わずにはいられない。
3週間のツアーは長かったが、得るものは多かった。もっと英語を勉強し、発言できる自信をつけたい。日本からの情報発信を行いたい。本当は日本にも、素晴らしいものはたくさんある。こころWebをはじめたころ、世界にもこんなDBが存在しないのを知ったときは優越感よりそれを世界に伝えられないもどかしさのほうが大きかった。ユニバーサルデザインも、日本ではもうこんなに一般的な用語になるまで浸透したのだ。社会に理解されるために、関係者はあらゆる場を使って意識改革に取り組んできた。日本のほうが進んでいることも、もっと世界に伝えたい。そんな思いをもって、帰途についた。長い旅は、実はこれからのもっと長い旅の、始まりかもしれなかった。