2002年CSUNツアーレポート:関根千佳(5)
3月21日
この日は、セッションホッピングに明け暮れた。防衛省による、障害を持つ連邦政府職員への研修プログラム(CAP: Computer/Electronic Accommodations Program)について聞く。Dinar Cohenは昔からの知り合いだが、相変わらずエネルギッシュだ。508条の導入以来、多くの省庁でまた障害者雇用が増え、機器の購入も含めてコンサル依頼が続出していることを楽しそうに話していた。なんと、現在48の連邦政府機関がここからコンサルティングを受けている。一回の費用は658ドル!と、言下に答えたのが可笑しかった。各障害について詳しい専門家が、新規に雇用する職員に対し、どんな機器をどのように使えばよいか、どんなサービスを行えば仕事が達成できるか、などを個別にコンサルするものだが、これまでの実績は30000件近いという。日本の某県庁は、障害を持つ職員受け入れの実態すら教えてくれないし、実際に聴覚障害者などは完全な門前払いのようだが、日本でCAPのようなプログラムが中央省庁にできて、それを地方自治体から受けられるようになる日は、果たしてくるのだろうか、と、またこころは日本に戻るのであった。。。
次にGreggや Bill Laplantらのパネルディスカッション、「508条とアクセシビリティの将来」に参加した。すこしメンバーが多彩すぎて、焦点がぼけたかもしれない。だが、508条が出たことにより、これまで非常に遠いところにいたATベンダーと一般製品ベンダーの距離が近くなり、互いに情報を交換し合い、これまでになく、緊密な関係になっていることが見てとれた。UDは、支援技術の市場を、大きく広げる役割を果たし始めている。UDは、最初、一般製品の使い勝手を、障害者も含めて改良することから始まった。アクセシビリティを「追加」する方向に走ったのである。しかし、508条であらゆるITがアクセシブルでなくてはならないという強制力が働いたとき、一般製品のすべてをアクセシブルにするにはかなり大変だということを、アメリカのIT産業は理解したのである。ここで、元からアクセシブルであった、さまざまなATベンダーとの蜜月が始まる。互いが緊密に連携して、ただ、プロトコルだけをやり取りすればよいではないか。そこでV2の話になるのである。 会場は満杯で、注目度は高かった。この会場でも、Compaqのマイケル竹村は人気者である。かっこよくて、スマートで、一瞬で「できる」とわかる男だ。さらにいいことに、車いすに乗っている!IT産業と、ATベンダーをつなぎながら、その間を軽やかに駆け抜ける。早すぎてついていけないじゃないか、、と、車いすに乗っていないメンバーは息切れしながら後を追うだろう。技術を得た当事者が、歴史を動かしている瞬間を、私はCSUNで、毎年見ているような気がする。
しかし、会場からは、もっと現実的な意見もばんばんでた。日本でも508条のようなものを制定しようとしていると聞いたが、アメリカは、協同歩調をとらなくていいのかね?というアドビさんの意見に、会場は騒然となった。おいおい、わたしはそんなこと言ってないぞ、と、つい、小さくなってしまう。Billに指名なんかされたら、生きて帰れないだろう。Greggはその点、大人なので、「はい、国際協調は大事です」と、あっさり回答していた。この分野、本当に、見えない非関税障壁ではないのだろうか?いや、対応できていない日本こそが、問題なのだ。アクセシビリティの問題意識が、ごくごく薄い日本こそが。