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2007年CSUNツアーレポート:関根千佳(6)

3月21日(その2)想定外の展開も多い

元気な当事者の発表最後に出たセッションも面白かった。Using AT at Work and Homeというセッションで、4人の当事者が自分の人生と仕事の仕方を紹介した。重度肢体不自由の3人はコミュニケーションエイドを使い、インドから移住してきた聴覚障害者一人は、手話を読んでもらっての講演だった。もう少し障害が軽い人の在宅就労を考えていた日本人参加者にとっては、コミュニケーションエイドを使って、ジョークまで交えての講演やディスカッションは、結構衝撃的だったかもしれない。ATがなければ、まったくコミュニケーションのとれない人々が、大学を卒業し、結婚し、就職し、家を買い、子どもを持って幸せな家庭を築いている。ここまでは、何度かCSUNに来ている私にとっては、まだ想定内のできごとだった。アメリカなんだもの。でも、話を聞いていくうちに、ふと、あることに気付いた。彼らは、みんなベイカーズフィールドのILC(自立支援センター)から来ているのだ。それほど大きくない街の一つのILCに、こんな重度のひとたちが3人も、ごく普通に働いて地域で家庭を持っているのか。ということは、全米ではこういう例はいったいどれくらいになるというのだろう?

私は、日本から来ている障害児教育関係者に聞いてみた。「あなたの教え子で、コミュニケーションエイドを使って生活している人で、普通に結婚して就労して子どもを持ったケースってあるかしら?」結果はやはり、ゼロだった。施設で暮らすか、入院するか、両親と住むか、いずれにしてもあまり自立した生活とはいえない。ATが、米国では重度障害者の生活を実際に支えているのだということを実感した。こういう前例が地域にたくさんいるから、ハーバードでの「自立生活はできるうえで受験してくる」のである。

最後の聴覚障害者の講演も面白かった。インドの小さな町に生まれ、まったく周囲に理解のない中で育ったが、少しずつ教育をうけて、最後にアメリカに移住し、そこで英語とASLを学んで大学に入るという話だった。英語を覚えるのに、テレビの字幕が大変役にたったと言っていた。WGBHのラリーが聞いたら喜ぶだろう。ここまでは、だが、私にはまたも想定内だった。すごいなと思ったのは、彼の手話を読む人のお話の仕方だ。感情を交え、驚きや悲しみ、喜びなどが、聴衆にも伝わるように、思いをこめて、一緒に語るのだ。聴覚障害のこの人には、今日ここで初めて会ったのだと思う。地名や名前などいくつかの単語が読み取れなかったからだ。だが、この人の人生を、一緒になって語っている。ああ、これが、プロフェショナルの通訳者なんだなあと思った。聞いているうちに、その聴覚障害者自身が、講演をしているような気になってくるのだ。日本では、手話や唇を読んで声に出す人はいるが、あまり感情を出さないように教育されているのか、それで感動するということは少ないように思う。無機質の、抑揚のないナレーションがずっと続くからだ。もっと日本でも、こういった講演の楽しさを伝える通訳が増えればいいと思った。これもコミュニケーション技術の一つなんだろう。


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