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2012年2月28日

今年度のCSUNは例年よりも開催時期が早くなり、なんと2月最終週。いつも三月中旬の開催なので、二週間もはやいことになる。成田発の全日空でSan Diegoへ出発。まずはLos Angelesへ。ほどほどの混み具合で、3列シートに二人で座ることができた。楽。無事にLAに到着すると、入管がとても混んでいて、全員のチェックが終わるまで2時間ほどかかる。簡単にお昼を済ませて、San Diego行きの便の出発を待っていると、ロビーでおもしろいデジタルサイネージを発見。

大型タッチパネルのデジタルサイネージ

写真中央の格子状になっている部分がタッチパネルになっており、触ると神経衰弱に似たゲームをすることができるという、ちょっと変わった広告だ。こうしたインタラクションのある広告は、これからもっと広まるのは確実で、印刷物を中心に活躍していたグラフィックデザイナーもインタラクションを学ぶ必要性が高まっていくのだろう。

一通りゲームを遊び終えて、San Diego行きの便の出るゲートに移動すると、なんと出発便がキャンセルに。ツアーを担当してくれたJTBの添乗員さんが素早く交渉してくれたので助かったが、結局2時間待って次の便に乗ることになる。

飛行機が遅れたことでKey Noteセッションを聞き逃すことになってしまったが、なんとそのビデオがWebにアップされていたので、ここでフォローします。(動画を組み込むと自動的に再生されてしまい、アクセシビリティ上よくないため、冒頭のキャプチャ画像にリンクを設定しております。なお、リンク先には、その他のセッションのビデオなども多くアップロードされているので、いろいろ参考になると思います)

キーノートスピーチのビデオへのリンク

到着すると、すっかり暗くなっておりお腹もすいていたので、ツアー参加者の皆さんとコンシェルジュが進めてくれた近くのイタリアンレストランに出かけることに。このレストランの内装が変わっていて、おもしろい。他のお客さんが座っていて写真が撮れなかったが、ローマ法王のマネキンが丸テーブルの中心に据え付けてあったのには、さすがにちょっと引きました。イタリアン・ジョークなのかしら?

壁一面の写真に囲まれた店内

2012年2月29日

今回はカンファレンスホテルから徒歩10分ほどにあるResidence Innに投宿。Gas Lampと呼ばれるSan Diegoのダウンタウンにあり、ホテルの周りには多くのレストランがあり、夕食のレストランを選ぶのに迷うくらい。ホテルの周りにはハンバーガーショップしかなかったLos Angelsの時代には考えられないくらいの贅沢な悩みだ。

Residence Innは朝食付きなので、さっとビュッフェを済ませたあと、参加者は7時半にロビーに集まって、徒歩10分のカンファレンス会場に移動する。
途中で、カンファレンスの創始者のハリー・マーフィーにばったり出くわす。社長が喜んでハグしていた。相変わらず元気そうでなにより。

初日は会議参加のためのレジストレーションがあり、例年だれかトラブルにあっていたので、全員で移動してまとめて登録することに。今年からカンファレンスの登録システムが変更になり、去年と違うので少し戸惑う。なんでも昨年までのシステムは、セッションの事前登録が必要で、参加者に不評だったそうだ。今年は登録の代わりに、参加希望をクリックすると、人気があるセッションの会場を変更するようにしたらしい。
大学生の学割登録をお手伝いする。事前に学割の登録をしておくとセッション参加費が半額になるが、うまく登録ができなかったそうなので、On Site Registrationに挑戦。受付で話すと、まずはとなりのPCでデータを入力しろと。その後、学生証を見せて無事に現金で会計することができた。

レジストレーションに時間をかけてしまったので少し遅れて、最初のセッションに参加。タイトルは「Yesterday Future」 アクセシビリティに関する3つのイノベーションの紹介ということだったが、最後のモバイルの紹介だけしか見ることができなかった。iPhoneを使ったコミュニケーションエイドのデモで、小学生くらいの女の子がすごい早さでiPhoneを操作しているビデオが印象的だった。(そのときに紹介されたビデオもWebにアップロードされています)

次のセッションは、「Analysis of Statistical Data for the Blind」に参加。アクセシブルなData Visualizationについて。具体例としてiPadで散布図を提示する方法をデモしながらの解説でわかりやすい。これまで視覚障害の人にグラフを説明するのは、図に代替テキストを付けるしかなかったが、iPadを使うと、グラフの指で触れた部分を読み上げてくれるので、音声でインタラクティブにグラフの意味を理解することができる。散布図の他にも、元素の周期表や地図などのデモもあり、今後の視覚障害者教育の可能性を感じることができた。

本日3本目「Web Accessibility Community Collaboration」。はじめにスピーカーから質問。W3Cにコラボまたはコメントした人が会場の半分くらい。CSUNに初めて参加、もしくはWebAccessibility初めての人が20%くらいというのを確認して開始。6人のパネルディスカッションで、W3Cの現状に関する解説。

午後からは「Intrduction to Windows8 」に参加。プラットフォームにはじめからアクセシビリティを組み込む。これによって、開発者の負担が軽くなるということが強調されていた。また標準装備のものだけでなく、追加のアクセシビリティ機能をApp Storeで見つけることができるそうだ。会場では実機のデモもあり、ここで動いているMetroUIを初めて見た。デモの音声読み上げの品質がすごくよい。日本語版にも、性能の良いTTSエンジンが最初から入っているといいのだが・・・。マイクロソフトは、これ以外にも多くのセッションを実施していたので、参考までに以下のリンクを貼っておきます。

Educational Sessions at CSUN 2012 - Microsoft Accessibility - Site Home - MSDN Blogs

午後2番目は「Code factory Andoroid And Accessibility」 企業が宣伝を兼ねて実施するベンダーセッションです。Code Factoryは視覚障害者向けのモバイルアプリを開発する企業で、今回はAndroid向けに開発した自社の読み上げソフトを紹介しています。

午後3番目は「Building Accessible Applications in HTML5」 Googleのベンダーセッションで、Accessibility業界では有名なT.V.ラマンが来るということで、会場は満員。しかし彼は都合で明日からのセッションに登場とのこと。代わりを務めたのはWebAppsの開発者のレイチェル。

Googleの発表 
モダンブラウザで支援技術を使用しているユーザーに対してのサポートをしており、Googleが実際に提供しているプロダクトがいくつか紹介された。

  1. Chromevox
    • キーボートとショートカットで操作できる 静的な文字とインタラクティブなコントロールを操作できるChromeのエクステンション 。
    • DOMインスペクターで対象ドキュメントの構成を確認(キーボードユーザーはDOMの順に読むから)
  2. ChromeShades
    • 開発者向けのテストツールで、視覚障害者向けのページを確認するためのもの
  3. ChromeVis User Manual
    • 選択されたテキストのサイズと色を自由に変更できるツール

これらのツールは、いずれもChromeのエクステンションとして公開されているので、ブラウザに組み込んで利用することができる。

https://code.google.com/p/google-axs-chrome/

「Creating Accessible Interactive Web Apps Using HTML5」として、HTML5をベースにしたWebアプリに関する話題も出た。iPhoneやAndroidなど、複数の端末で動作させることができるWebAppsは今後のモバイルを考える上でも重要で、これらのアクセシビリティへの対応方法は参考になります。

夕食にはハリーお勧めのステーキハウスに行ったのですが、ここも昨日と同様、キッチュなお店でした(笑)。でも料理はおいしかったですよ。

巨大なステーキ

2012年3月1日

二日目のセッションは「Social media acceesibility」から。 キャッチコピーは「SPAM2,0(Social Prooly Accesible Media)」。迷惑メールのSPAMと誤解されそうなキャッチですね。 Faebookなどのソーシャルメディアのアクセシビリティ対応状況についての発表です。プレゼンターは、ソーシャルメディアは、障害を持つ人にとって、大きな可能性を秘めていると力説。これには激しく同意。
実際にFaebook、Google+、Linkedin、Twitter、Youtubeの5つについて、WAG2.0への対応状況について調べている。どれもあまり対応していないようだ。プレゼンテーションのテンプレートがちょっと気持ち悪い(笑)のが気になります。Slideshareで公開されていたので、リンクを付けておきますが、お気を付けて。

Social media accessibility: where are we today?

SPAM2.0

次に参加したセッションは障害のあるユーザーに対して、リモートでユーザビリティテストを実施するノウハウを説明してくれたKnowbility社。オンラインのユーザビリティテストサービスを利用してスクリーンリーダー・ユーザのテストを実際に見せてくれました。こうしたリモートのユーザビリティテストはこれまでも弊社で実施していたのですが、こうしてツールを使って効率化できるので、大変参考になりました。

続けてGoogleのT.V.ラマンのセッションに参加。Googleのセッションはどの回も立ち見が出るほど人気なので、早めに行っていい席を確保。

GoogleのT.V.ラマン

Ice Cream Sandwichというとても食欲をそそるタイトルのセッション。Ice Cream SandwichとはAndoroid4.0のこと。つまり最新のAndroid4.0のアクセシビリティ機能に関する解説です。画像認識や音声読み上げなどの機能をデモを交えながら解説。驚いたのは紙幣の読み取り機能。カメラで紙幣を撮影すると、金額を教えてくれるというもので、ドル紙幣だけでなく世界各国の紙幣を読み取れる。実際に海外からの参加者が出した紙片を見事に判別していた。

Understanding accessibility at CSUN 2012 | Official Google Blog

2012年3月2日

この日はETSIの「European Public procurement of accessible ICT」から参加。EUが準備をしている公共調達に関するアクセシビリティ条件に関するMandate376に関しての発表です。米国リハ法508条と関連するので、お互い協調して制定を進めている。発表者はAdobeUKのアクセシビリティ・エンジニア。

M376では、これからオンラインでの調達サポートツールを公開する予定で、アクセシビリティの要求をテンプレートにし、それを比較できるようにするそうである。このあたりは米国の流れと同じ。実際のサポートツールがどのようになるのかが興味深いです。

M376の政策上のポジションは標準と義務化の両面

続けて「Advances in Robotics & Computer Vision for AT」のセッションへ。主にKinectのRobot visionのATへの応用について。 単純に思いつくのは、手話のキャプチャーですよね。MSが主催のKinectのデモも別のセッションでやっていたけど、こちらはノートルダム大学。Kinectプログラミングは個人的にも興味があり、C#でも書けるようなので、そのうち挑戦したいテーマの1つです。また、このセッションではじめて知ったSocial Signal Processing(SSP)というものにも興味を持ちました。SSPとは、人間のあらゆる情報を集め、ノンバーバル言語やジェスチャなどを解析する試みです。ここでは人間の情報を集めるのにKinectを使おうというのです。日本でもビッグデータの活用が話題に上るようになりましたが、将来的には、こうした人間の情報も対象になるのでしょう。

WAI チームのラウンドテーブル。WebサイトのTest Use caseは、これまでキーボードを中心に考えられてきたが、モバイルが進むとタッチやジェスチャー、スピーチ入力など様々に変わってくるため、テストケースを拡張しなければならないそうだ。前のセッションでKinectなどのNatural Interfaceが、これから増えていくことを考えると、アクセシビリティのとらえ方というものがどんどん広がっていくだろう。マルチモーダルなインターフェースの選択肢が増えれば、それだけ代替手段も増えることになる。問題はその際にAlternativeなInterfaceを自分で選べるかどうかだ。

以上で印象に残ったセッションは終わり。CSUNのセッションはこの日が最後になります。セッション終了後にツアー参加者全員でSan DiegoのOld Townで夕食を取ることになりました。

ガスランプの入り口 サンタフェ駅

oldtownの入り口 oldtownの中のレストラン

ホテル近くのGas Lamp駅から鉄道にのり、Santafe駅で乗り換えてOld Townまで行きます。この道のりもすべてアクセシブルなのが嬉しいですね。San Diegoはメキシコ国境に近いので、Old Townに入るとまるでメキシコに来たような雰囲気。レストランでは巨大なマルゲリータとメキシコ料理を楽しみました。

2012年3月3日

土曜日。午前中は自由時間なので、ホテルの周辺を探索。San Diegoの大リーグチームPadresの本拠地Petcoパークまで歩いてすぐなので、球場の見学。

petcoスタジアム

午後からはバンを借りてリタイアメントコミュニティの視察に。こちらではそうした施設をRCFE(Retirement Community for Elderly)と略すらしいです。RCFEには240人が滞在しており、住人は平均22年ほどの期間をここで過ごすとのこと。とてもすばらしい環境だが、費用は月に1,600~7,000ドル負担で入居できるそうだ。

施設の中にはコンサートホールや図書館、木工室など様々な部屋があり、それぞれ居住者が自由に利用できる。我々が見学したときには、ちょうどコンサートホールで練習が行われていたところだった。てっきりボランティアが来ているのかと思ったら、居住者の人たちが集まって作ったバンドなんだそうだ。広い図書室は2つあり、1つはミステリー専門の部屋だそうでじっくりとトリックに挑むことができる。DIYが好きなアメリカ人らしく、木工室もかなり使い込まれており、様々な作品が作られていた。

図書館には拡大図書も用意 木工室には旋盤も装備

施設の中には、あちこちにPCが置かれていたが、これは一般的なパソコンとしての利用では無く脳のトレーニング用のプログラムがインストールされていた。居住者はこれを使って自由にトレーニングができるそうで、実際にその様子も見せてもらった。

脳トレマシーン

San Diegoは気候が温暖で治安もよく、老後を過ごすのに最適な場所といわれている。そのため近郊には、こうしたRCFEが多く存在している。中には普段はミネソタに住み、雪に閉ざされた期間だけここにくる「Snowbird」と呼ばれる人もいるそうだ。渡り鳥生活が受け入れられるのもアメリカのRCFEの特徴なのかもしれない。

RCFEを後にして、いざ帰国。以上CSUN2012ツアーの報告でした。


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