W4A2008北京レポート(6)
ここから、発表の内容を紹介していく。予稿が当日配られたこともあり、事前に読んでいないし、聞き取りづらい発表もあったため、誤解や梅垣の感想が含まれている。正確な研究内容の把握には、予稿を見ていただきたい。予稿は、すべて acm のライブラリーで公開される予定である。また、Slideshareでいくつかの発表スライドも公開されている。
Session 1 - Accessibility and the Social Web
The Impact of Accessibility Assessment in Macro Scale Universal Usability Studies of the Web
Rui Lopes and Luis Carrico
「Webの大規模なユニバーサルユーザビリティ研究におけるアクセシビリティ評価の影響」というタイトルのこの発表では、Webアクセシビリティの 評価方法をモデリングすることを目的とした研究である。WCAG1.0とWikipediaのページを用いて、評価結果を数値化することを目指している。 Web Interaction Environment(WIE、ウェブの使用環境)として、Users(ユーザー)、Devices(機器)、Usage Situation(使用環境)、User Intentions(ユーザーの意図) の4つに着目して分類し、それをOWLを用いた語彙で定義できるようにしている。予稿から引用すると、たとえば User は次のような構造の語彙で定義する(以下の引用は全体の一部である)。
User
UserAbility
AbilityCognitive
AbilityPhysical
UserCharacteristics
CharacteristicsAge
Characteristics Handedness
UserCulture
CultureLanguage
LanguageWritingDirection
UserDisability
DisabilityCognitive
CognitiveMemory
CognitiveReading
DisabilityPhysical
PhysicalBlind
PhysicalMotor
ユーザーを分類する語彙として、認知能力、運動能力、年齢や利き手、言語などがあるのが分かる。このように、WIEのモデルを構築したうえで、適切なWIE モデルを選択して、それを使って評価するというわけだ。つまり、「ユーザー像」を厳密に定義しようという試みである。このモデルを使って、 Wikipediaのアクセシビリティを任意の100ページで評価した。ある式によって、0〜1の結果が得られる。
この研究の評価結果を見ると、正直いえば議論するほどのものにはなっていなくて、結局WIEというモデルの提案発表と見るのが正しいだろう。このように、 モデル化してユーザーを分類してその上で数値化するという研究は、欧州ではとても活発だ。ただ、その評価の部分が今一つ見えてこず、数式だけが独り歩きして いるという印象がある。数式にこだわりすぎると、「人とコンピュータのインタラクションのしやすさを評価している」というやわらかい部分が見えてこない。 数値と言ってもある種の指標程度であると考えないと、どうも袋小路に入ってしまうのではないかと思う。
The Impact of Accessibility Assessment in Macro Scale Universal Usability Studies of the Web (PDF)
Technical Paper: Is Wikipedia Usable for the Blind?
Marina Buzzi and Barbara Leporini
これは、なんと録音音声でのプレゼンだった。Wikipediaを使う上での全盲ユーザーの課題を整理してはいるが、Webアクセシビリティの入門のような、alt="This link" のような説明が延々と続いたので、パス。
Communication Paper: The Accessibility Kit for SharePoint - A Community-Based Approach to Web Accessibility
Kurt A. Mueffelmann(HiSoftware), Cynthia Shelly(MS),
HiSoftware の開発した Accessibility Kit for SharePoint (AKS) の話。これは、マイクロソフトの SharePoint (MOSS)サーバーをアクセシブルにするためのプラグインみたいなもので、マイクロソフトと一緒に開発したらしい。C#で作られていて、 SharePint サーバーの出力、labelingやテキストサイズなどをAKSがカスタマイズする。要するに、アクセシビリティ対応できていなかったこの製品の「対応 パッチ」みたいなものだと考えるとよさそうだ。そのうち、マイクロソフトのサーバーに含まれるようになるらしい。
なお、この開発はコミュニティを作ってエンドユーザーの参加も得て行われたらしい。アドオン的なものなので、MOSSとは分離して開発できて、ユーザー参加もスムーズだったとのこと。