第二章 冬の章「贈り物として」
5.いのち(その3)
林が切れた。白い雲の切れ間から、わずかに夕焼けが見えている。美しかった。孝志は、ルイカの電源を入れた。
「孝志です。聞こえますか?今、林の外に出ました。聞こえたら返事をしてください」
町役場では孝志との交信に成功したことで沸き立っていた。とりあえずたっくんも無事なようだ。ルイカのGPS機能ではなかなか位置の特定ができそうにな
いが、カーラジオの電源を入れることを孝志に告げた。東京から孝志の母と妹もかけつけてきた。圭吾が孝志のルイカに何かの映像を送った。
「後からでいい。開いて見ておいてくれ」
香成は、孝志に言った。
「僕らが行くまで、たっくんを抱いていてくれないか」
孝志は赤ん坊の扱いなんかわからないと言った。
「二人で一緒に寄り添っていないと、朝まで持たないぞ。きっと迎えに行くから」
孝志はしぶしぶ承知した。
「車に戻ります」
「位置は金山の東南東 北緯三十六度七分三十一秒、東経百三十七度十一分二十三秒と思われます。これから救助に向かいます。」
香成が全住民に指示を出した直後だった。
「大変だ、轟峠でなだれが起きた!こっちの道から車は通れん」
「除雪しても半日はかかるぞ。明日になってしまう」
岸上ママが悲鳴をあげた。
「明日までなんて待てない。たっくんが死んでしまう」
泣き崩れる一家を遼子が支えて椅子に座らせた。
「住民のみなさん、金山に孝志くんとたっくんがいるというところまで、みなさんのご協力で判明しました。しかし、たった今、轟峠近辺で雪崩が発生
し、現場に近づけない模様です。解決策があればご提示願います」
町長の悲痛な声がルイカを通じて町に響いた。町は一瞬、静まり返った。沈黙を破って、豪快な声でテレビ電話が入ったのは、その数分後だった。