スローなユビキタスライフ感想文
黒須 正明 氏 独立行政法人メディア教育開発センター研究開発部 教授
ユーザー工学の観点からみた関根シナリオ
筆者のシナリオはユビキタス情報社会におけるヒューマンライフのあり方を小説風に描いたものです。
近未来の社会で、人と技術がどのような形で融和的に組み合わさってゆけるかを描いたものです。
ユーザー工学は、人間の特性や状況を考慮しながら人と人工物の関係を最適化しようとする分野ですが、そこで最近注目されている手法としてシナリオベーストデ
ザインというものがあります。要するに、現在の世の中で人々がどのような問題に直面しているかという課題の整理(問題シナリオ)、そして、そうした問題を
解決するためにどのような手段が考えられるかという提案(活動シナリオ)、こうした点について、それを技術的な表現ではなく、シナリオという形で表現し、
設計(デザイン)に活用していこうとするのがシナリオベーストデザインです。シナリオという形にすることによって、人と人工物が置かれている状況を具体的
に表現することができ、そのユーザビリティがどの程度のものか、どこに問題が残されているか、などを理解しやすくすることができます。シナリオには、私が
提唱しているマイクロシナリオというショートシナリオと、キャロルが提唱している中程度の長さのシナリオ、それと関根さんが書かれた短編小説のようなマク
ロシナリオとがあります。
今回の筆者のシナリオは、マクロシナリオという形によって活動シナリオを書きながら、さらにそこに技術的な課題をも盛り込んであり、問題シナリオにもなっ
ている。そうした重層性を持っています。
こうした点で、シナリオベーストデザインに新しい切り口を開いたものとして私は高く評価している次第です。