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スローなユビキタスライフ感想文

内藤 文子 氏  浜松市役所職員/静岡大学情報学部情報学研究推進室客員助教授

個人情報の流出やカードの偽造、ケータイによるいじめや犯罪。生活を便利にしてくれるはずのITが、私たちを震撼させるような事件を巻き起こす。一方で、 ユビキタス社会のイメージとして描かれるストーリーは、まるで安手のSF小説のよう。
ひどく未熟なIT社会の只中でユビキタス社会への漠然とした不安を拭い去れずにいた、そんな矢先、この物語に出会った。

この物語には人々の生活に欠かせない道具として、携帯端末「ルイカ」が登場する。
「ルイカ」は、まちの「誰か」の気持ちに寄り添いながら、その人が幸せになるために必要な機能を作り込むというプロセスを幾度も繰り返して、まちのしくみ になった。
「ルイカ」によって人は人とつながり、自分自身の役割や居場所を見つける。本当に、やおよろずの神が宿っているかのように、「ルイカ」はまちの人々を見守 り、そっと支える。

どんなにITが進化しても、人間が生きるために必要なことは変わっていない。
しかし、自然と共生していた時代に比べると、「意識」しなければ、「人間」として生きることが難しくなっている。
ロボット犬やバーチャルリアリティゲームで子どもを育てるのか。
自らの手を汚すことなく、バーチャルゲームのように戦争を仕掛けるのか。
この物語に出会うと、「人間」として生きるために必要なことを思い出せそうな気がする。

スローなユビキタスライフは、新しいようで、懐かしい、不思議な物語だ。