スローなユビキタスライフ感想文
小川 克彦 氏 NTTサイバーソリューション研究所 所長
ITと生活をユニバーサルデザインの達人がつなげてくれた。
近未来の生活は小説や映画にさまざまなかたちで登場してきた。メタリックな街を疲れた人々がうごめき、そこにハイテクITが場違いな電子広告を映しだす。
未来と技術の描くイメージはそんなに暗いのだろうか。技術者の私にはいつも疑問が残るのだ。かといって、専門書が描く技術はあまりにも高度だし、その技術
を利用した生活はあまりにもバラ色なのだ。
ユニバーサルの達人は、そのギャップを贅沢ともいえるストーリで鮮やかに埋めてしまった。さまざまな悩みをかかえる登場人物に、知らず知らずのうちに自分
を投影してしまう。高齢者との同居、子供の不登校、悲しい過去の出来事。でも、周囲の温かい愛情に支えられ、自分でも見えなかった束縛が見えてくる。しか
も、あせらずスローな生活のなかで。そのなかで目立たずITがしっかりと働いているのだ。
ITの象徴は情報端末のルイカだ。でも、ルイカの大きさも色も重さも、本には書いていない。きっと、それが気になって、とうとう作ってしまう誰かの出現
を、この達人は狙っているのかもしれない。